2016年8月22日月曜日

83日目:未来への手紙

ムスメ、金曜日から38.5度を超える熱。
夏風邪だろう。
私、37.2度。微熱。
多分疲れが抜け切らないでいる。


昨夜、なかなか寝付けなかったムスメ。
鼻が詰まり、息がしにくい様子。
私はムスメの両手を優しく包み込み、
「大丈夫だよ。すぐ治るから」
一言添えて眠ろうとした。

お互いの熱が手を通して伝わりあう。
熱い。
二人して風邪ひいているから当然。

少し時間が経った頃、すすり泣きし始めたムスメ。

「どうした?頭痛い?」
「パパ、私、おばあちゃんになって死にたくない。死ぬのが怖い」
ムスメは号泣しながら両腕を回し固く抱きしめてくる。

(へ?急にどうした?)

慌てて返す。
「なんで?大人になるの楽しみじゃないの?」
「嫌だ~」
更に号泣していく。

「だって、おばあちゃんになって死んだら、パパとママと会えなくなる。お友達とも会えなくなる。そんなの嫌だ!」

誤魔化すか。
真実を言うか。

「なんでさ~、人は産まれてきて死ぬの?」
畳み掛けるように真意をついてきた。


私、昨年、人の生死につき必死で考えた。
小さい頃は全く考えたことの無い、後で気づいたが答えも出ない難題を必死で考えた。
1年4ヵ月考えた。
やはり、私は答えに辿り着けなかった。
その変わり論点を変えてみた。
楽しく死ぬためにはどうしたら人生が楽しいのかと。
行き着いた答えが今の自分である。

5歳のムスメ。
何故、産まれながらにして死なないといけない運命なのか。
ムスメは今、それを本気で考えている。
答えを知りたがっている。
死ぬ事への恐怖、嘆き、悲しみを抱え、今苦しんでいる。

私は・・・
こんなムスメに嘘は言えない。


「あのね、人はどうしても歳をとってしまうんだよ。おじいちゃんやおばあちゃんみたいに歳をとって、最後は心臓が止まる。それが死ぬってこと。死んだらどうなるかは分からない。勿論病気で死んだりもするけど。離ればなれになるのは悲しいけど、こればかりはどうしても避けられない」

言い切った。
悪くも真実を。

「それが、嫌だー」
ムスメの涙は止まらない。
「人って嫌だー!地球も嫌だー!」
「どうして、嫌なの?」
「地球にいると人は死んじゃうから」
「うーん、人だけじゃなくて、動物も死ぬよ」
事実を叩きつけた。
「全部嫌だー!」

そりゃ、嫌だろう。
私も嫌だったのだから。
死にたいと言わなかっただけ安堵した。

「もし、本当の魔法使いがいて死なない薬をサンタさんが持ってきてくれたら、死なない?」

「死なない薬か・・・」
答えを逡巡する。

「それはまだ発見されてないんだよ。実際ね、サンタさんもたくさん死んできたんだよ。1代目サンタが居て、彼が死んだら2代目サンタが産まれて、2代目サンタが死んだら3代目サンタが産まれて・・・それを今までずっと繰り返してきたんだよ」
指折り数えながら、サンタを変えて説明する。
涙は少し落ち着いてきた。
けれど、手はしっかり握ったまま。
熱も冷めない。

「ママがお薬の仕事してるから、ママに頼む」
「そのお薬自体がまだできていないんだよ。みんな必死になって研究している所なんだよ。でもね、難しいお薬だろうから、自分で研究してみたら?」
「そんなの無理!」
「やる前から無理と決めつけないこと。今まで頑張ってきた事一杯あったでしょ?出来ない事あった?」
「うん〜…ない…」

今迄も今も、ムスメは困難に立ち向かって耐えてきた。結果、運動神経は悪いが、園で一番最初に補助輪無しの自転車に乗れるようにもなった。字も読める、書ける。作画は私を超えている。今は側転を練習している。
可能性は0でない限り持たせたい。

「だったら、本物の魔法使いだったら作れるかもしれないよ。あーでも、男の子たちは仮面ライダーになるって言ってるけど、そんなのいないしね」
現実を知っている話ぶり。
でも、残念ながら魔法使いという存在も危うい話だ。

「男の子は夢見がちだからね。でもねぇ、本当の魔法使いもいるかどうかも分からない。これが本当の話なんだよ」

沈黙が訪れた。
暗闇の中、ムスメの顔を見てみる。
目は空を仰ぎ考察中だ。

「パパは幽霊とか見れるんでしょ」
「感じるだけだよ」
「私は見たくない。幽霊になりたくない」
「だなぁ。だったら、パパより先に死ぬんじゃないよ」

言ってしまった。
「死」という言葉を。

また号泣が始まる。

「パパ~。ずっと一緒にいたい!」
「パパもだよ。でもね、もし好きな人が出来て結婚する時が来たら、今度はおうちに遊びにくる番だよさ。孫を連れてさ」
「しない!赤ちゃんも産まない」
「なんで?」
「お腹痛くなるから。ママみたいに入院するの恐いから」

ムスメの中では、入院することへの恐怖もまた存在しているらしい・・・

「大丈夫。すぐ退院できるさ。2~3日でね」
「でも・・・」

返事を待つ。
再び静寂が訪れた。
ムスメの顔を伺う。
目を閉じてる…?

「もう寝よっか?」
ムスメから突拍子の無い寝よう宣言。
涙は枯れ、話尽くしたという雰囲気。
 
(は?今までの話は何?まぁ、いっか)

「だな。寝るか。またこういう話する?」
「うん」
「じゃぁ、おやすみ」
「おやすみ♪」


自分、家族、友達。
好きなものを大事にしたい、離れたくない。
その気持ちは十分解る。
頭では分かっていても、気持ちを落とし込めない。
そうだね。理想は矛盾だらけなんだよ。
貴方は素直で優しい子に育っている。

5歳で「生と死」の哲学領域に踏み込んだ思考能力。
正直嬉しかった。
けれど、現実を見れば悲しい話。

誰であろうと死ぬ。
これは永久不変の事実。
聞かれた時どう説明するか、親としての説明義務があると思う。
私の応えは正しかったのだろうか…
分からない。

数年後、この日記を読むであろうムスメへ。

貴方の事は此処にちゃんと残しているから。
パパより。

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