娘との風呂。
小1でもまだ一緒に入ってくれる事に、嬉しさは全裸以上に隠せない。
「ねぇ、パパぁ」
「うん~?」
「あのね、今日小学校で、A君がB君の靴を隠したんだよー」
髪の毛を流しながら学校で起きた話をしてくる。
「ふ~ん」
(そんなん話って、小学校ではしょっちゅうあるでしょ)
相槌半分で応答した。
「これってさ、A君が子供なんだよね~」
最近の娘は、女になりかけている。
俗に言う『オマセ』というやつだと思う。
「子供~?自分も子供でしょ」
頭を洗い流し終えた俺は、さも当たり前の事を普通に言ってみた。
「いやさ、そういう子供ってわけじゃなくて、考え方が子供ってわけよ」
「どうして~?」
そう。
俺の性格で傷な所。
『どうして』
『なんで』
を、聞きたがる。
今回の娘の話の道筋は大体見えていながらも、スキル『どうして』を発動させた。
性格の悪い俺やな~。
「だってさ、靴を隠したって、良い事があるわけないじゃない。隠されたお友達は悲しい気持ちになるだけだし。それにこの前『道徳』で勉強したばかりなのに。それって保育園生とかさ、自分以外の人の気持ちを分かってないってことじゃん」
「ほ~~~~う」
これは…
ニヤニヤが止まらない。
いつの間にこんなに畳み掛けるように『正義』だと思われる自分の意見をはっきり、自信を持って言えたようになったなんて。
聞いていて爽快。
ってか、ちょっと泣きそう。
でも。
人の気持ちを理解。
かぁ…
こればっかりは経験していないと、本当に理解できているかどうか分からない。
「じゃあ、逆に聞くよ~。もし、自分がお友達の靴を隠す所を発見したらどうする?」
「先生に言って、そのお友達に注意する。それって楽しいの?って」
「楽しいって言ったらどうする?」
「それは可笑しいでしょ。だって、悲しい事をする事を楽しいって思うなんて実験って感じになっちゃうじゃん」
「実験ねぇ…」
「そう。理科の実験とかまだやったことが無いけど、動物とか人で、自分のために実験してどうかなる?っての?それって、自分以外の人は楽しくないじゃん」
髪の毛は流したままで洗わず、濡れ髪のまま話し通す娘が居た。
すげ~。
俺、小1でそんな事考えたこと無いよ。
『オマセ』ではなくて『人の心』をしっかりもってたよ!
「うん。今の所、花◎100点をあげる!で。靴を隠されたB君の話だけを聞いても、隠したA君の考えている事が見えないよね。だったらどうするかな~?」
娘を褒めて更に追求してみる。
「先生がね、帰る前にお話するからって、A君だけ教室に残してたよ」
「それは先生に花◎だね~。で、何か分かったかな?」
「ん~どうだろう?先生は叱りやすいから、叱ったのかも。怒るってところとちがうからね」
「うん、叱る。ね。それは分かるよ。う~ん。先生も一方的にA君を叱るかな~。ほら、もしかしたら、今日じゃなくて別の日にB君がA君の靴を隠したりとか、悪戯したりとかして、ある意味の恨みを買ってたんじゃないの?」
「う~ん。それはない」
「なんで?」
「B君は優しいし、そこまで子供じゃないから」
「なるほどね~」
ザバザバザバーーーー。
俺は洗い終わって湯船に浸かる。
娘はやっとシャンプーを終えたようで今から体の方へ。
実験って娘の口からも出てきたように、愉快犯的な感じなのかな。
それとも。
やったらダメ。
道徳で習ってしまうと逆に試してみたくなる。そういう衝動だったのかな。
子供って考えを除外して、知的欲望とか。
なくもないかなぁ。
ふ~~~~ん。
学校かぁ。
カポーーーーーン。
お風呂ならではの静寂が訪れた。
娘の手は体を洗うシュワシュワを石鹸でアワアワにしようとしていた。
ふと思った。
『理科の実験とかまだやったことが無いけど、動物とか人で、自分のために実験してどうなるっての?それって、自分以外の人は楽しくないじゃん』
娘の言った台詞に、該当する職業に俺は就いている。
どう思ってんだろう?
「さっきさ、理科の実験とかまだやったことが無いけど、動物とか人で、自分のために実験してどうなるっての?それって、自分以外の人は楽しくないじゃんって言ってたじゃん。でも、パパも似たようなお仕事してるの知ってるでしょ?それはどう思う?」
・・・・・・
(こういう質問が来るって察してたのかな?)
「実験が終わった後、動物はお亡くなりになります。まぁ、殺すってわけだけど、動物の命を使ってでもしないといけないことかなぁ?それって本当に必要かなぁ?」
・・・・・・
娘のアワアワ作業が止まった。
「それは、やらなきゃいけないことだから。でしょ?」
(此処に来て疑問系な回答かぁ。当たり前だよなぁ。酷だったかなぁ)
だから、
「やらなきゃいけないこと?どこらへんが?」
うん、実に意地悪な質問だと思った。
しかし、これには即答だった。
「人が動物を使って実験して新しいお薬を考えたりとか。それって人が生きるためだからしょうがないんじゃない。」
(もう一声。しょうがないで終わって欲しくない。)
「しょうがないから。で、命を消すんだよ。それでいいのかな?」
「でも、パパ達は動物の命の大切さを知っているからこそ出来るお仕事でしょ。大事に命を使って新しい薬をしっかり作る。そういうお仕事なんじゃないの?」
ポカーーーーーン。
第一印象(こいつすげーな)
シンプルだけど、動物実験倫理規定における基本指針では、大雑把ながら100点の回答です。
小1!
その域まで達してるのかーーー!!!!!
「せーかい!!!!まぁ、別のやり方も増えてきてるけど、今の質問に対しての答えとしては大正解だよ!!!!」
嬉しさの余りに声を張り上げてしまった。
「ほっ」
俺の声が大きすぎて、娘の安堵の一息が微かにしか聞こえなかった。
ザバーーーーーン。
(熱い…)
嬉しい話を聞けて長湯しすぎたから勢いよく脱出。
「今日はすっごく勉強になったよ!」
「なんの勉強になったの?」
首を傾げる娘。
まだアワアワになりきらないシュワシュワを持つ娘を見ながら、
「大人になってる事がよく分かったから!」
脱衣所から全裸で振り返り様に、親指を立てて娘にグーを送る。
娘はぷにって笑った。
ぷにっ?
あれ?振り回してる感じが面白かったの?
もしかして今のなしだったの。
0 件のコメント:
コメントを投稿